私は天使なんかじゃない
ロボット工場 〜戦闘レクチャー〜
最初は誰もが経験が皆無の素人。
伸びるか伸びないか。
それは個人の頑張り、そして玄人の指南が必要。
宇宙船内にあるロボット工場。
そこでは自律型のドローンと呼ばれる無人兵器が製造されている。ラインで流れ作業的に開発される無人兵器を製造しているのは機械。
機械が機械を造る。
製造に関る人員を極力抑えたのは画期的ではあるものの逆にそこが狙い目。
何故ならロボットの大半は造り掛け。
実際的な戦力は開発に加わっているエイリアン、製造されたロボットのみ。
……。
……ま、まあ、製造完成したロボットがどれだけあるかは未知数だけどさ。
だけどロボット制御装置とかそういう類がある可能性がある。向かう先はロボットを製造する場所だ、そういう類のものがあるだろう、多分。
ともかく狙い目はロボット工場。
こちらは人数が少なく武器も少ない、だから一撃一撃を確実にこなして行きたい。
さあ、行動開始っ!
未知の技術の工場。
未知の技術の工場。
未知の技術の工場。
目に付くものは全て意味不明。ピカピカ光るモニターとかシステム、休憩室っぽい場所にあるテーブルの上にはウニョウニョとしたタコかミミズか分
からない生物が鉄のようなお皿の上に載っている。作業者のお弁当かおやつか何かだろうか?
意味分かんないんだよなぁ、結局。
ここは宇宙人の船。
地球の文明外の世界。
まあ、全てが未知なのは仕方ないか。
私達はそこを歩く。
私達、私や過去を明かしたくない女性ソマー、BOSとかいう組織のスクライブ・エンジェルの3人だ。私達人間連合の手元にある数少ない武器は私達に
集中させている。一応、私達がとりあえずの激戦場所だからね。その他大勢は物資収集前提で貨物倉庫。私達は戦闘前提でロボット工場。
武器を私達に集中させるのは最善だと思う。
……。
……ま、まあ、そのようにしたのは私なんだけどさ。
今のところ私はエイリアンを1人も倒していないペーパードライバー的な感じの、ど素人。戦闘は得意ではありません。
ボルト101での大暴れ?
あれは結局のところボルト101のセキュリティも井の中の蛙だったからだ。連中も所詮ど素人に過ぎなかったわけだ。エイリアンはおそらく肉体的には
私よりも脆弱ではあるものの持っている武器は超ハイテク兵器。セキュリティとエイリアン、ともに動きはど素人でもハイテク持ってる方が強い。
つまりは私よりも強いってわけだ。
武力として役に立てないなら知力で、という事で私は現在は軍師的な役目として頭脳を役立ててます。
で、まあ、現在はロボット工場にいるわけで。
武器を構えて私達はゆっくりと歩く。
ソマーとエンジェルはお互いに技術屋らしいのでエイリアンの技術を見て囁き合っている。
「こいつは凄いねっ!」
「そうね。ピット襲撃中のエルダー・リオンズにも見せてあげたいわ」
「これを地球に持ち帰ればBOSにも対抗出来るね」
「ちょっとソマーっ! 私達を敵に回す気なのっ! 受けて立つわよ、スティールの名の元に戦いを承諾するわっ!」
「……冗談よ」
会話の内容、意味不明です。
エンジェルが言うピットとかエルダー・リオンズがよく分からないけど……まあ、2人の間では会話として成立しているのだから私が知らないだけだね。
というか会話が成り立ってるわけだから2人は時代が近いのだろう、おそらくは。
まあ、それはいい。
会話の意味は不明ではあるけど、そこはいい。
もっと不明なのがあるからだ。
私は立ち止まる。
2人も同じように立ち止まった。私は呟く。
「ねぇ? どうしてここは壊滅してるわけ?」
「私に聞かないで欲しいわね、ミスティ」
「だよね」
困惑顔のソマー。
それもそうか。
私達人間同盟の中で宇宙船内を一番歩き回っているのはサリーだけ。監獄に拘留されていたソマーに分かるはずがない。
エンジェルに視線を移すと彼女も首を振った。
お手上げか。
「……」
「……」
「……」
立ち止まったまま3人で壊滅したロボット工場を見る。
ラインは崩壊。
そこに乗っかってる製造過程の、造り掛けのロボット群は永遠に完成されないまま沈黙している。製造に関っていたであろうエイリアン達はバラバラに
なったり黒焦げになったりして果てていた。機械の類は炎上したり、ところどころで小爆発を続けていた。
ロボット工場に侵入した時から不思議だった。
ところどころで戦闘の後があったからだ。
だけどまさかラインがここまで破壊されているとは思わなかった。
何があった?
何が……。
ソマーはエンジェルに言った。
「これは、技術収集どころじゃないね」
「ですね。使えるのはなさそう」
確かに。
私は心の中で同意した。
すでに戦闘の範疇ではないかもしれないな、これは。
破壊だ。
徹底した破壊。
どういう兵器を使ったらここまで徹底した破壊が出来るのか知りたいものだ。
その時……。
ドカアアアアアアアアアンっ!
「な、何っ!」
思わず私は叫んでしまう。
ソマーとエンジェルは咄嗟に抱き合ってたりする。
爆発だ。
爆発音が工場の奥の方から響き渡った。
もしかしたらエイリアン同士で内乱騒ぎでもあったのかもしれない。それともドローンとかいうロボットがいきなり暴走した?
あー、それとも私達以外に脱走した人間達が徒党を組んだ?
ともかく。
「行ってみようっ!」
「そうだね。ミスティ、行くとしようか。エンジェルは?」
「同意します。行きましょう」
奥にっ!
奥に行く。
壁に大きな穴が開いていてその穴を通って無人兵器ドローン完成品が並ぶ工場に入る。完成品の検査場かな?
ただし私達が通った壁の穴は正規の出入り口ではない。
誰かが大穴を開けたのだ。
誰かは知らんし方法も分からないけれどさ。
そこで私達は見る。
息を呑んでその有様を、見る。
立ち止まったまま私達は動けなかった。
完成品検査場に立ち並ぶ無人兵器はことごとく破壊されておりエイリアン達は全滅。物言わぬ存在となって累々と横たわっていた。
そう。
隣の工場と同じ状況だ。
だけど1つだけ別の状況がある、戦闘がまだここでは継続中だった。
「あれは……」
私は呟く。
戦闘をしていたのは鎧女フィッツガルド・エメラルダ……あー、フィーと呼ぶように言われてたっけ。
ともかく。
ともかく戦闘をしていたのは彼女だった。
私達には気付いていないらしく……まあ、気付いていたとしても戦闘に忙しくて挨拶してる場合ではないだろうけどさ。
「煉獄っ!」
彼女の手から小さな火の玉が放たれる。それは小さな塊だったけど無人兵器に直撃した瞬間、膨張、大爆発を起こした。
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!
爆炎が周囲のエイリアンをも巻き込む。
瞬間、彼女は走る。
手には一振りの剣。最初会った時は無手だったけど武器を見つけたらしい。
……。
……あれ?
彼女が手にしているのは日本刀だ、サムライソードだ。前にボルト101にいた頃の歴史の授業で見た事がある。
エンジンコアにいるサムライマンの武器かな?
「はあっ!」
鋭利な刃を手にしたまま彼女は蒼いビームを放つエイリアンの集団の真ん中に飛び込む。
ビームにはまるで気に払っていない。
当たってる。
思いっきり当たってるんだけど彼女は痛みを感じないのかのごとく敵のど真ん中に突っ込み、容赦なく刃を振るう。
実際効いてないのか?
完全に『ばっさばっさと敵を倒す爽快感っ! フォールアウト無双っ!』的な感じだ。
強いなぁ。
強い……んだけど……何気に……。
「はっはぁーっ!」
妙な笑いを響かせるフィー。い、いえ、フィーさんです。呼び捨てごめんなさい。フィーさん、何気に少し怖いんですけどーっ!
私はソマーに呟く。
「あの人怖いんですけど」
「言うな。私も怖い」
「ですよね」
強過ぎるから怖いというか……ま、まあ、魔法のような未知の能力を振るう彼女が怖いというのもあるけど……何より怖いのは徹底した冷徹さかな。
少なくとも。
少なくとも最初の自己紹介の時はとってもフレンドリーな笑みをフィーさんは浮かべた。
だけど今は?
完全なる冷徹さの冷笑を浮かべながらの戦闘。
どうやら彼女は完全に性格を使い分けられるらしい。戦闘には、敵にはまったく容赦しない感じがする。いいえ、実際そのとおりなのだろう。
天使で悪魔。
私はそんな感じがした。
私も、まあ、時に使い分けるけどそこまで徹底したものではない。
悪魔と呼ばれるほどに冷徹さを使い分けれないと思う。
別にこれは彼女の行動が悪魔的だとか批判しているわけではなく、あくまで私はそこまで完全に区別して性格を使い分けれないと言いたいだけだ。
私の性格を言葉にすると、そうね。
私は天使なんかじゃない。
うん、悪魔ではないけど天使でもない、という意味合いからそんな風になるかな。
「見て」
エンジェルが指差した。
その時、フィーさんは最後のエイリアンを頭から真っ二つにして切り裂いた。
戦闘終了。
ロボット工場は陥落した。
「ミスティ」
「ん? 何、ソマー」
「話しかけてきて」
「はっ?」
「いいね、それに賛成」
「……」
エンジェルもかよ。
主人公は辛いですなー、とメタ発言してみる。
やれやれだ。
「あのー」
「ああ、いたの」
ブンっと刀を振るいつつ私を見るフィーさん。
まさか私まで斬らないでしょうね?
「何か用? 機嫌悪いんだけど」
「えーっと」
機嫌悪いのかよ。
嫌だなぁ。
「それ、サムライマンの武器なので返してあげくださいね」
「ああ。このアカヴィリ刀には所有者がいるのね。いいわ、返す。剣術は私にとってただの趣味。魔術師だからね、本職は。剣は必要ない」
「アカヴィリ刀?」
何のことだ?
日本刀じゃないのか、あれ。
「私らはジェネレーター潰してくるから、後はよろしく。行くよ、エンジェル」
「ええ」
あっ、逃げやがった。
大分びびってたもんなぁ、2人とも。
……。
……私も内心でびびってますけどね。怖いもん(泣)。
だけど安心もしてる自分がいた。
フィーさんは強い。
強過ぎる。
おそらく私は彼女の炎の球を放ったり雷を手から発したりエイリアン兵器を無効化したりは出来ないだろう。絶対にね。
だけど。
だけどその強さに憧れを感じていた。
私はパパを探してボルト101を出た。キャピタル・ウェイストランドは宇宙船ほど物騒かもしれないしそうではないかもしれないけど、いずれにしてもボルト101の軟弱体質では生き抜けないのは確かだ。
逞しさが欲しい、世界で生きれる逞しさが。
その逞しさを体現しているのがフィーさん。
彼女から学ぼう。
戦闘。
戦略。
戦術。
そして機転や話術、吸収出来る能力は吸収しよう。
「あの、フィーさん」
「何?」
「聞きたい事があるんですけど」
「ええ。いいわ。話してごらん」
「はい」
頷きながら私は自分のフィーさん像が正しい事を内心で誇った。彼女は確かに天使で悪魔だ。味方にとっては頼り甲斐がある姉御肌の人だ。
だけど敵にとっては?
ある意味で彼女の性格は徹底していると思う。
もちろん良い意味で。
戦闘中に妙な哀れみや躊躇いは死に繋がる。仲間と一緒に戦っているのであれば仲間の死にも繋がる可能性がある。
だから彼女は徹底しているのだ。
仲間の死を嫌うから。
そういう意味では彼女は究極に優しい人なのかもしれない。もちろん敵にとっては死神なんだろうけど。
さて。
「戦闘に必要な事って何ですか?」
「修練」
的確な答えが返ってくる。
そう。
どんな天才でも結局は修練が必要。天才が持っているのは素質であり絶対的な事柄ではない。結局修練が必要になる。もちろん天才の場合は習得のスピードが凡人よりも早いんだろうけどさ。
私は凡人なのでやっぱり修練には時間が掛かる。
結局は一朝一夕ではないのだ。
日々修練が必要。
だけどそれは分かってる。私が聞きたいのはそうじゃない。
「フィーさん、そうじゃなくて」
「ん?」
「修練が必要なのは分かってます。私が聞きたいのは、その、心構えというか」
「戦闘の?」
「はい」
「つまりは戦闘において有利に立つ方法?」
「そうですそうです」
「簡単よ。心を動かされない事ね」
「心を?」
「そう。どんな展開だろうと心を動揺させない事ね。少なくとも表面に出すべきじゃあない。そこを相手に衝かれるからね。駆け引きの前提は何だと思う?」
「機転とか知略とか」
「いいえ。そうじゃない。虚勢よ。つまりはハッタリ」
「ハッタリ、ですか?」
「もちろん下地には機転とか必要よ。でも、まずはどんな展開だろうと心を動かされない事を心掛けなさい。そうすれば相手は怯える、何か隠し玉みたいなものがあるんじゃないかってね。
微笑なさい、不敵に振舞いなさい、でもやり過ぎは駄目。駆け引きとは引いたり押したり。絶妙なバランスが必要」
「……」
「言葉も必要。真実味を持たせる会話を心掛けて。滑稽な話は駄目。あくまで現実路線の言動に様々なエッセンスを加えるのがコツね」
「……」
「戦闘も戦略も戦術も戦ってれば身に付く。焦らなくても大丈夫。ああ、それと最後に1つだけアドバイス」
「アドバイス?」
「仲間は絶対に裏切っちゃ駄目。仲間こそ最大の財産。そして心の武器になる。裏切られても裏切っちゃ駄目。何があっても裏切らない、その信条が確固
たる力となる、仲間達の信頼となる。ただ、裏切られた場合は……」
「笑って許す?」
「いいえ。叩きのめす。裏切り者は敵だからね。了解?」
「はい。ありがとうございます」
タメになるなぁ。
そうだ、この際だから色々と聞いておこう。
「あの」
「ん?」
「あれってどんなトリックなんですか?」
「トリック、何のこと」
「手から魔法みたいなののことです」
「魔法なんだけど」
「はっ?」
ジョークなのか?
うーん。
不意にフィーさんは私に顔を近付けてマジマジと見る。
顔近いって。
「ふーん」
「な、なんですか?」
まさかそっち属性なのかっ!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「魔力を感じない」
「魔力?」
なんのことだ?
「私も聞きたいんだけどここって何って世界?」
「今、いる場所ですか?」
「そう」
「宇宙人の宇宙船の中です」
「何それ」
通じないのか?
「えーっと、私らの住んでいる世界に攻め込んできた連中の船の中です」
「船、これ船なんだ。ふーん。つまり侵略者の船ってこと?」
「そうです」
「じゃあミステイたちが住んでる世界の名前は?」
「地球ですけど……」
「地球」
そう呟き、何やらブツブツと呟きだす。
耳に全神経を集中させてみる。
「地球ってどこよ? やれやれ。シェオゴラスの干渉でシヴァリング・アイルズに飛ばされたのかと思えば……そういえばここらは魔力の流れがないな、思ったより面倒な展開なのかも……」
シェオゴラス?
シヴァリング・アイルズ?
大半が意味不明だ。
マジでファンタジーな人なのか?
「あのー」
「何?」
「魔法って、まだ別なのが使えたりするんですか?」
「ええ。何ならデイドロスっていう二足歩行のワニ出してあげようか?」
「……絶対にやめてください」
脳がこれ以上は処理できそうもない。
「ところで機嫌悪いって言ってましたけど、何かあったんですか?」
「えっ? ああ。シロディールに帰りたいからオブリビオンの門を開こうと思ったんだけど私では開けなかったわけよ。それでここで暴れたってわけ。皆殺しにしたの結果的に敵だったし、オッケーよね」
「……オッケーじゃないです」
八つ当たりでここ壊滅したのか。
船に穴開いたりしたら全員お陀仏だぜ、まったく。
「それでミスティ」
「何ですか?」
「この面倒な展開終わらせるには誰殺せばいい? 言ってくれたらデストロイしてくるけど?」
「……」
彼女が主人公でいいんじゃね?